トラマガ
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 【前編】 【後編】
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(2013年6月10日更新)
有名作家の本を数多く訳している加賀山卓朗さんですが、翻訳の勉強を始めたのは30代も半ばになってから、サラリーマン生活にピリオドを打ち翻訳家として独立したのは40歳のときだったそうです。しかし、どんな経験も翻訳家にとって無駄にはなりません。子どもの頃から好きだった読書が今の仕事の礎となり、サラリーマン時代の経験はビジネス書の翻訳に役立っているといいます。かつては受講生、今は講師という立場から、プロになるために必要な学習とは何か、ご自身の体験をもとに語っていただきました。

加賀山卓朗<かがやま たくろう>
★年に2,3回は山に登ります。会社員時代には本格的な登山をしていたのですが、最近は登山とハイキングの間くらいのレベルです。
★テニスも会社員時代に始めましたが、運動不足解消のために今でもできるだけ週に1回はするようにしています。
★趣味はコンサートに行くこと。というかサントリーホールの音響が好きで、時々オーケストラを聴きに出かけます。
★仕事中のBGMもだいたいクラシックです。ロバート・B・パーカーには意外にもモーツァルトが合います。『運命の日』を訳していたときは、ブルックナーやマーラーの大曲を聴いていました。
★加賀山先生が講師を務める講座
通信講座マスターコース「ミステリー」の詳細はこちら
通学講座 出版翻訳コース「フィクション<1>」の詳細はこちら

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――まずは最新の訳書についてご紹介いただけますか。『ミスティック・リバー』でも有名な巨匠デニス・ルヘインの最新作だそうですね。
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 『夜に生きる』という作品です。舞台は禁酒法時代のボストン。ギャングの下っ端だった主人公が、ボスに上りつめるまでの物語、と簡単に言えばそういうことなんですが、読んでみると普通のギャング小説とは違って、ちゃんと人間が深く描かれているんです。それが、このルヘインという作家の持ち味ですね。

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――『ミスティック・リバー』『シャッター・アイランド』に続いて、この作品も映画化が決定したそうですね。アメリカ探偵作家クラブ賞(エドガー賞)最優秀長編賞の受賞も決まったとか。
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 そうですね。最初に原稿を読ませてもらったときは、私も「これは傑作だ」と思いました。でも、訳しているうちによくわからなくなってきて(笑)。結果的に、予想した以上の反響だったので、安心しました。

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――「訳しているうちにわからなくなってきた」というのは?
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 最初に通して読むときは、一読者と同じように読むので楽しめるのですが、翻訳しはじめると内容にのめり込みすぎて、自信がなくなってくるんですよ。本当に楽しんでもらえるだろうかと。この作品だけじゃなく、そういうことは結構あります。『ミスティック・リバー』のときもそうでした。たしか、私が下読みしたときはまだ映画化は決まっていなかったと思いますが、すごい作品だと思いました。作品が素晴らしかったので翻訳には没頭できたのですが、あの頃はまだ会社員をしていたので、時間的にはかなりきつかったです。

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――ルヘインの作品は短編集も含めると『夜に生きる』で5作目ですね。以前に訳したことのある作家の作品はやりやすいものですか?
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 初めての作家を訳すのに比べると、もちろんやりやすいですね。作家がだいたいどういうことを考えているのか見当がつきますから。特に『夜に生きる』は『運命の日』の続編でキャラクターはできあがっているのでやりやすかったです。ただ、ルヘインの場合はちょっと癖があるというか、ところどころ表現が詩人っぽくなるので、ついていくのが大変といえば大変です。

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――映画化が決まっていたり、有名作家の作品だったりということでプレッシャーは感じますか?
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 それはないですね。プレッシャーはあるんですが、それはどの作品でも同じことで、映画化されるからという特別な気負いはありません。

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――ご自身が訳された作品の映画はご覧になりましたか?
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 はい、もちろん観ました。『ミスティック・リバー』は監督がクリント・イーストウッドで、それはもう素晴らしかったのですが、驚いたのは自分が訳した作品と本当にイメージどおりだったことです。ルヘインとイーストウッドの考えが一致しているんでしょうかね。一方、『シャッター・アイランド』のほうのイメージは違いましたね。もちろん原作も映画もどちらも良さがあるのですが、映画のほうがスコセッシ監督の色が強いというか。そういう点でも、後から映画を観るのは訳者としてとても興味深いです

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――加賀山さんはフィクション以外にビジネス書などノンフィクション系もたくさん訳されていますね。
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 出版翻訳家のデビューの仕方として、自分が受けていた講座の講師の紹介でリーディングや下訳から入るというのが多いと思いますが、私も師匠である田口俊樹さんの紹介でリーディングや短編の手伝いから始めました。最初はフィクションでしたが、田口さん自身がフィクションとビジネス書の両方を訳されているので、ビジネス書の仕事も紹介していただいて訳すようになりました。会社員生活が長かったので見知った分野ということもあり、ビジネス書は自分でも訳していて納得する部分が多く、楽しめます。ビジネス書のほうは依田卓巳のペンネームで訳しているものも多いのですが、今では仕事の半分はビジネス書ですね。

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――フィクションとビジネス書では、翻訳するにあたって違いはありますか?
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 違うという人もいると思いますが、私はあまり変わらないですね。しいて言えば、ビジネス書は、読者に最小限の努力で情報を仕入れてもらいたいので、とりわけわかりやすい書き方というのを考えます。多少原文をいじったとしても、何を言わんとしているのかがすぱっとわかるほうがいいと。それに対してフィクションのほうは、読んでいる時間そのものを楽しんでもらいたいので、そのような表現を探します

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――フィクションに比べるとビジネス書のほうが調べものが大変そうなイメージがありますが。
トラマガ

 そうとも限りません。たとえば『リーマン・ショック・コンフィデンシャル』は大変でしたが、それは金融系の調べものが多いうえに、時事ものなので、少しでも早く出版したいという事情があり、通常の倍くらいのスピードで訳さなければならなかったからです。一般の自己啓発書になるとなら、それほどでもないでしょう。逆にフィクションでも、歴史ものや特殊な分野になると調べなければならないことがけっこうあります。なので、一概には言えないですね。

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――加賀山さんも最初はリーディングの仕事からとおっしゃっていましたが、出版翻訳者にとって欠かせない仕事ですよね。
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 私もそうでしたが、新人翻訳者はデビューの前に必ずといっていいほどリーディングの仕事をします。原書を読んで、あらすじを書いたり、作家や作品についての情報をまとめたりするのがシノプシスですが、その内容や思い入れや文章力が編集者に認められて翻訳の仕事につながる、というケースが非常に多いので、シノプシスがうまく書けるかどうかは出版翻訳家を目指す人にとっては重要なことだと思います。さらに言えば、出版社からリーディングの依頼がなくても、自分であちらの良書をどんどん発掘して提案していくぐらいのガッツがないと、これからは厳しいでしょうね。

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――シノプシスを書くときのポイントを教えていただけますか?
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 シノプシスというのは、編集者がこの原書を翻訳出版すべきかどうか検討するための資料ですから、いわゆるビジネス文書であり、企画書の一部です。編集者にとって、どのような情報が必要かを考えながら作成することが重要だと思います。それから、シノプシスには枚数の基準や決まったフォーマットなどはなく、好きに書いていいのですが、ビジネス文書という側面から考えると、長すぎずコンパクトにまとまっている必要があります。1冊の本の情報をコンパクトにまとめるためには、かなりの部分を省略しなければならないでしょうが、それによって辻褄が合わなくなると困るので、シノプシスの中で矛盾が生じないようにしなければなりません。そのあたりは、ある程度の経験やテクニックが必要だと思います。

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後編では、修業時代、加賀山さんの転機になった読書体験について、さらに翻訳学習法についてお話を伺いたいと思います。お楽しみに。

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