添削トレーナー対談
佐藤利恵さん×河口知代子さん<前編>
通信講座「出版翻訳講座」のトレーナーである佐藤さんと河口さんのインタビューをお届けします。通信講座で学んだ経験があるお二方。トレーナーという立場になって、添削をする際の難しさ、そしてやりがいとは?
佐藤さん「翻訳したからこそ外国の文学が読めるんだと気づいた」
河口さん「子どもの頃から本が好きで、いわゆる活字中毒だった」
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出版翻訳家を目指そうと思ったきっかけを教えてください。
佐藤さん
英語はずっと好きで、高校時代に1年間留学、大学は英文科を専攻しました。でも、英語を使って仕事をするほど英語力に自信がなかったので、英語には特にこだわらずに就職をしました。
仕事の事で悩んでいたある日、子どものころからの愛読書である『星の王子さま』を読み返して、ふと「あとがき」に目が留まりました。そこで改めて、そうかこの作品はフランス文学だったんだ、と思ったんです。
子どもの頃は作品を楽しむことに夢中でしたが、大人になって読むと違うところに目が行くものですね。日本人の翻訳者がいて、これを翻訳したからこそ外国の文学が読めるんだ、私もこんな仕事がしたいなと思いました。
それから、どうすれば翻訳家になれるのかを調べて、まずはフェロー・アカデミーの通信講座「翻訳入門<ステップ18>」から本格的に翻訳の勉強を開始しました。 -
河口さん
私は子どもの頃から本が好きで、いわゆる活字中毒の類でした。佐藤さんと同じように私も高校時代に1年間留学したのですが、その時は日本語の本が手に入らないので仕方なく英語の本を読んでいました。私の場合は英語が好きというよりは、英語でもいいから本を読みたい、という感じです。
大学は社会学部で英語には関係がなく、就職も英語とほとんど縁のない小売業に就きましたが、本好きは相変わらずで、日本語でも英語でも常に本を読んでいました。
同じ仕事を10年以上もしているとだんだん行き詰まりを感じてくるもので、あるとき本を読んでいたら、ふと頭に「翻訳をやってみたらどうだろう」という思いが芽生えたんです。それから翻訳に関する雑誌を買ってきたりしていろいろと調べました。
希望は出版翻訳でしたが、とにかく翻訳で生計を立てるという想いで、分野を問わず学べる「カレッジコース」に入学を決めました。1年半の準備期間を置いて、13年勤めた会社を辞めました。 -
その後、お二人とも色々な講座を受講されていますね。それぞれの講座の特長などを教えてください。
河口さん
河口さんの翻訳作品『あなたの牙をひとりじめ』 私は、「カレッジコース」に加えて通信講座マスターコース「ミステリー」も受講しました。非常に濃密な1年間でした。翌年は、単科の出版実践「フィクション」「ノンフィクション」「出版総合演習」の3講座に通い、その年もマスターコースを受講しました。2009年より越前敏弥先生の「越前ゼミ」に通いました。
通信と通学を同時期に並行して受けていたのですが、両方やってよかったと思います。
通学講座のメリットは、その場ですぐに質問できること、先生が授業の合間に話す余談から生の情報が得られること、教室に目的を同じくする仲間がいることです。ただ、講義の時間も限りがあるので、当番の人の訳文と先生の解説を参考にしながら、自分の訳文に自分で赤を入れていかなければなりません。
通信講座はその点をカバーしてくれます。特にマスターコースは課題量も多く、それを先生が細かくチェックして、本人の個性や文体を生かした上で細かく指導してくださいます。通学講座では口頭でさらりと説明されるところでも、赤字となって丁寧に書き込まれていると受け取るときの重みが違います。そうした形で先生のご指摘を受けて、自分の文章をちょっと変えるだけで数段よくなり、目から鱗が落ちる思いをしたことが一度や二度ではありません。 -
佐藤さん
私は通信講座「翻訳入門<ステップ18>」を修了後、総合翻訳科「ベーシック3コース」の受講を機に会社を辞めました。
その後は「ノンフィクション」「出版総合演習」「フィクション」など出版翻訳の講座を1年あるいは半年単位でいくつか受けました。
ジャンルによって、訳し方や表現も変わってきます。例えば「ノンフィクション」では、この分野の主な読者層である男性は、格のある文章が好みなのだなとか。「ベーシック3コース」を受講していたときの恩師は、難しい表現は使わずに、人をくすりと笑わせるユーモアの感覚があり、ノンフィクションもフィクションも手がけていらっしゃって、まさに私の目指すところだなと感じました。訳文を提出すると、私が迷ったところや時間が掛かったところを鋭く指摘してくれるんです。見透かされているようでした。
コースを修了してからもクラスの有志を募って勉強会をしていました。メンバーは少しずつ入れ替わっていきましたが、最後まで残った人たちは、現在みんな翻訳の仕事を始めています。各々忙しくなったので勉強会を行っていませんが、デビューしたての頃は、わからないところがあるとお互いに聞き合って、ずいぶんと助けられました。 -
河口さん
私がカレッジコース、マスターコースで教わった布施先生は日本語として正しい表現か、主語と述語の係り方は間違えていないかなど、細かいところまで指導してくださいます。この講座を受けて初めて、正しい日本語の書き方というものに気づかされました。
特に出版翻訳の場合、どの先生も日本語の表現にこだわっているというのは共通していますが、スタイルはけっこう違います。
今は越前先生のゼミに通っていますが、越前先生は「この文章を訳すためには要点としてここを押さえておかなければならない」と非常にシステマチックな教え方で、そうした要点に気づかせるために課題が用意されます。
いろいろな先生の講座を受けて、自分に合う先生を見つけるというのもいいですよね。
出版翻訳家としてデビューしたきっかけ
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出版翻訳家としてご活躍中のお二人ですが、デビューのチャンスはどのようにしてつかんだのですか?
佐藤さん
「ベーシック3コース」でお世話になった講師からのリーディングの紹介がきっかけでした。
山岳ノンフィクションで、専門用語などわからないことも多く大変でしたが、同じ出版社の方にそのまま翻訳もやってみないかと言われたんです。その後、ハーレクインのトライアルに合格し、ロマンス小説の翻訳もしています。どんなジャンルの仕事も断りませんし、先入観を持たずに挑戦することが大切だと思っています。 -
河口さん
私も、クラスメイトから新しいレーベルが立ち上がるときに誘っていただき、そこでリーディングの仕事から始めたことがきっかけです。運よくリーディングを読んだ編集者から声をかけられ、そのまま翻訳のお仕事をいただくことができました。それを機に、今はロマンス小説の翻訳メインに年に3冊くらい訳しています。
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出版翻訳家としての今後の抱負を教えてください。
河口さん
私は、現在ロマンス翻訳のお仕事がメインなので、今後はさらに分野を広げていければと思っています。その意味もあって、また講座に通い始めました。仕事ではロマンスを訳しているので、それとは対極の硬質な訳文を書く越前先生から指導を受けているんです。今後は、ハードボイルドな作品にも挑戦してみたいですね。
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佐藤さん
佐藤利恵さんの翻訳作品『レックス』 視野を狭めないことって大切ですよね。私も、いろいろなジャンルの翻訳に挑戦したいと思っています。一人前になるまでは好きなジャンルを選べる訳ではありませんし。でも、翻訳をしていると、自分の苦手だと感じていた分野でさえしっかり向き合うことができるんです。ど文系の私が、科学系の翻訳に挑戦しているときは自分でも不思議に思いましたが(笑)、この仕事をしていなければ絶対に出会うことのない知識だと思いました。
今後やりたい仕事をあえて言うならば、フィクション、ノンフィクション問わず、ストーリー性のあるものを訳していきたいです。昨年刊行された『レックス-母と自閉症の息子、ふたりの人生を変えた音楽』(主婦の友社刊)は訳しながら感銘し、これまで訳した中でも最も満足のいく思い入れの深い作品となりました。こうした作品にまた出合えるよう、仕事の幅を広げていきたいです。
プロフィール
右:佐藤 利恵<さとう りえ>さん
左:河口 知代子<かわぐち ちよこ>さん