鈴木敏之先生の「日英翻訳」の授業をのぞいてみました
英日だけでなく
日英翻訳専門の科目も
総合翻訳科カレッジコースは、実務・出版・映像の3分野の翻訳を集中的に学ぶ1年間の全日制コース。オールラウンドな基礎力とともに、ジャンルごとの実践的ノウハウを養うことを目標としている。5つの必修科目と12の選択科目(最大7科目まで履修可)が用意されており、今回は必修科目の1つ、「日英翻訳」の授業を見学した。
授業は「宿題」の発表から始まった。ここでいう「宿題」とは、毎回の翻訳課題とは別に、前の講義で疑問に思ったことを受講生が自ら調べて報告すること。この日、担当の受講生は「ゼロの表記は0かzero か?」について調べたものの、明確な答えは見つからなかったという。しかし調査でわかったこととして、「1から9まではスペルアウトし、10以上の数字でも文頭に来るときはスペルアウトする」と報告した。
講師の鈴木敏之先生は「頑張ってよく調べました」とねぎらい、参考になる2冊の辞書を紹介。「確かなのは、文頭で算用数字を使ってはいけないということ。覚えておきましょう」と全員に伝えた。
宿題の確認が済むと、本題へと入っていく。この日の翻訳課題は、測定機器のトラブルシューティング。A4紙1枚の一覧表で、「症状」「原因」「対処方法」という項目の下に「測定値がばらつく」「ブローブランプが緩んでいないか?」「測定時にブローブを静かに当てる」といった記述が列記されている。
どの文章も簡潔だが、中には「スタイラス位置が測定範囲以上に押し込まれていないか」など、状況をイメージしにくい記述も。そこで鈴木先生は、白板にイラストを書いて説明し、「原文の日本語がわかりにくいので、いつも言うように『日→日』をしてから訳すことが大事」と強調する。
日→日とは、わかりにくい日本語からわかりやすい日本語への「翻訳」、つまり日本語の字面ではなく意味を考えること。日英であれ英日であれ、原文理解なしに翻訳はできないという、ごく当然の事実に気づかされる。
正しい用語の選択や
動詞の用法を丁寧に指導
訳文の検討では、さまざまな指導がなされた。まずは一覧表を訳すときのルール。鈴木先生は「項目欄の『症状』(symptom)は単数形でも複数形でも構わないが、どちらかに決めたら『原因』『対処方法』もそれに合わせ、単複を統一すること」と教授する。
英語については、表現や文法に関するアドバイスが相次いだ。「『(基準値などに)対して』はwith respect to」「技術文ではgetはあまり好まれない」「The switchを主語にするなら、does not turn on ではなくis not turned on」「level は、Adjust the level.のように名詞ではなく、Level the installation base.のように動詞で使う」など。翻訳の現場で培われた生きた知識が、受講生へ次々に授けられていく。
鈴木先生の指導は、丁寧で粘り強い。ときには受講生自身の“気づき”を促すかのように、「これはどういう構文?」などと突っ込む。記述内容がわかりにくければ白板で図説し、どんな質問であろうと、納得してもらえるまで言葉を尽くして説明する。うまく訳せていれば「いいですね」と賞賛を惜しまない。受講生がよく発言していたのは、先生への信頼の表れのように感じられた。
学習のまとめとして、「トラブルシューティングの翻訳では、冠詞を省いたり、文章ではなく名詞句にしたりするやり方もありますが、それはまだ先の話。まずはきちんとした英文を書く力をつけましょう」と鈴木先生。次回の課題である「ボタン説明」について、「三単現のsを付けた動詞で文を始めてください」とヒントを出し、授業を終えた。
日本人翻訳者にとって、英訳スキルは大きな“武器”。そのこと1つとっても日英翻訳を学ぶ意味はあるが、カレッジコースの受講生はほかに英日翻訳の講座も数多く受講している。日英・英日の双方向で翻訳に取り組んでいる経験は、今後プロとして歩んでいく上での確たる拠り所になることだろう。
【講師からのメッセージ】
総合翻訳科カレッジコース「日英翻訳」
鈴木敏之先生
すずき・としゆき/抄紙機メーカーで海外とのコレポンや翻訳に従事した後、印刷会社勤務を経て、フリーランスの翻訳者に。自動車、オーディオ関連のカタログや説明書のほか、食を中心とした日本文化紹介パンフレット、環境白書などの英訳を手がける。
日英翻訳と英日翻訳を学べば
それぞれに相乗効果が生まれます
このクラスでは、技術系を中心にビジネス、食、健康などをテーマにして日英翻訳の基本を学習します。英語ではなく翻訳を学ぶ場ですので、なるべく「これはダメ」と断じたり「こう訳す」と押し付けたりしないようにしています。「これは文法的にどうなの?」などと問いかけたりしますが、それは考え直すことで間違いに気づいてほしいから。英文法にしろ単語にしろ、訳す前に必ず調べる姿勢を身につけてほしいですね。
日英翻訳と英日翻訳の両方を学ぶメリットは、拙い訳が減ることにあります。日英を学んでいると、英日をしているときでも「この日本語訳から原文を思いつけるか?」という意識が働くようになります。その結果、原文をよりしっかり読み解き、その意味をよりクリアに伝えようとする姿勢が培われるのです。逆もまた然りで、日英と英日のどちらにも相乗効果が生まれます。
英訳力を高めたいなら、とにかく表現の引き出しを増やすこと。ガムの包み紙に書かれた英語でさえいい教材になりますので、さまざまな英語に触れてください。また役に立ちそうな参考書や辞書を見つけたら、思い切って購入しましょう。そして翻訳するときには、とことん調査をする。「知ろう」という探究心と好奇心こそ、翻訳者に不可欠な資質です。
フェローなら、プロになるのに必要な知識やスキルを体系的に学ぶことができます。ぜひ、皆さんの夢を実現してください。
『通訳者・翻訳者になる本2019』(イカロス出版発行)より転載
(Text 金田修宏 Photo 今野光)
ニュース一覧
- 2018.8.15
- 特別講座「チェッカー講習」を開催しました
- 2018.6.15
- 2019年度から入学試験がオンライン形式に変わります
- 2018.2.26
- 株式会社iYuno Globalの企業説明会を開催しました
- 2018.2.26
- 鈴木敏之先生の「日英翻訳」の授業をのぞいてみました
- 2018.2.5
- 株式会社フォアクロスの企業説明会を開催しました
- 2018.1.15
- 2月3日(土)カレッジコース説明会で修了生2名の経験談を聞こう!
- 2018.1.5
- 2017年度受講生向けの企業説明会 続々と開催決定!