s 12歳の少女の一人旅を描いた物語『あたしが乗った列車は進む』を文芸翻訳家 杉田七重さんが紹介|翻訳の専門校フェロー・アカデミー

文芸翻訳家 中村久里子さんのreco本『目の見えない人は世界をどう見ているのか』

 出版翻訳家が最近読んだおすすめの本=“reco本”を、リレーで紹介していきます。「次はなんの本を読もうかな」と思ったら、ぜひreco本を手に取ってみてください。バトンが誰に渡るのかも、お楽しみに!

 前回の中村久里子さんからバトンを受け取ったのは、いっしょにランニングやお酒や落語を楽しむ仲間たちの頼れるリーダーでもあり、尊敬する大先輩でもあるという杉田七重さんです。今回もぜひお楽しみください!

杉田七重さんのreco本

  • 『あたしが乗った列車は進む』書影

    『あたしが乗った列車は進む』

    ポール・モーシャー 著
    代田 亜香子 訳 (鈴木出版)

  •  

     主人公は十二歳の少女。いっしょに暮らしていた祖母が亡くなったため、遠い親戚の家へ送られることになり、ひとり長距離列車に乗ってカリフォルニアからシカゴへ、大陸横断の旅に出る。網棚の上に旅行カバンといっしょに置かれた黒い箱。じつはそこに彼女が乗り越えねばならない重い問題が詰まっている。自分の意志とは関係なしに送り出された旅の憂鬱と合わせて、どれだけ重苦しい物語かと思いきや……。
     
     福祉事務所から支給された旅の資金をお菓子で全部散財し、出発時から早くもすっからかん。食事に困れば車内で勝手なアルバイトを考案して小銭を稼ぎ、それでも飢えれば売店で食べ物を失敬する。髪を緑に染めた十二歳の少女のたくましい生活力と、見事な機転にほれぼれしながら、徐々に明らかになっていく彼女の過去にぐいぐいひっぱられ、ページをめくる手がとまらない。
     
     舞台は列車の車内という閉鎖空間。主人公はそこで出会う大人たちに反発し、支えられ、ひとりの少年と恋をし、別れる。そんな人生の縮図のような三日間の旅を経て、列車が目的地に近づいたときの、少女のめくるめく成長に魂を揺さぶられる。
     
     海外のYA小説を読んでいると、詩を愛好する若者がよく登場する。日々の生活のなかで、あたりまえのように好きな詩を暗唱し、自分でも詩作をする。本作の主人公も言葉を支えに生きてきて、この車内で出会う一編の詩に希望を見いだす。やはり文学は人が生きる上で大きな力になるのである。

     

杉田七重さんのプロフィール

文芸翻訳家。ウィリアム・ダルリンプル/アニタ・アナンド『コ・イ・ヌール 美しきダイヤモンドの血塗られた歴史』、マイケル・モーパーゴ『たいせつな人へ』『トンネルの向こうに』、ライマン・フランク・ボーム『すばらしいオズの魔法使い』、ミシェル・クエヴァス『イマジナリーフレンドと』、M.G. ヘネシー『変化球男子』、ルイス・キャロル『不思議の国のアリス』など訳書多数。

担当編集者のコメント

高瀬 めぐみさん

この作品の原書との出会いは、エージェントからの紹介でした。何冊かいっしょに紹介してもらったなかで、ストーリーの魅力はこの作品がピカイチでした。天涯孤独な12歳の少女のひとり旅。大陸横断鉄道の3日間。淡い恋。乗り合わせた人々との出会いと別れ。簡単な紹介文と表紙のレトロモダンな装幀に惹かれ、すぐに読み始めたことを覚えています。結果は予想以上。胸の奥がぎゅっとなる、詩情豊かな掘り出し物でした。

鈴木出版のWebサイトはこちら

翻訳者のコメント

代田亜香子さん

 主人公は、ひねくれ、こじらせた女の子ですが、なんだかかわいくて、たくましくて、ふしぎと明るいのです。いっしょに列車の旅をしたら、大好きになっちゃうはずです。訳していても、主人公の心の声は自然ときこえてきました。主人公をさりげないやさしさで見守るまわりの人たちは、自然と浮かんできた俳優やキャラクターをイメージしながら訳しました。読みながらきっと、パンケーキが食べたくなるはずです。

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ご紹介で八木恭子さん
おすすめの本です。
お楽しみに!

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