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2016年2月1日カテゴリ:インタビュー

「字幕翻訳者の仕事とは?」
通信講座マスターコース講師の大塚美左恵先生に聞いてみました

――映像翻訳者として字幕を作るときに大切にしていることはなんでしょうか?

大塚先生:
視聴者が作品を楽しむ助けになるような字幕を作りたいと思っています。映画館でお金を払って映画を楽しむ時、とりわけ字幕に注目するという人は少ないのではないでしょうか。字幕は作品と一体化し、透明な存在になればなるほど、本来の役目を果たしていることになると思います。作品より字幕のほうに注意を引きつけてしまったとしたら、翻訳者としては失敗です。
ただ視聴者としては、あえて「字幕を楽しむ」という映画の楽しみ方も、アリかなと思います。私も、映画館では余裕がありませんが、一度見た作品をDVD等で見直す時は、日本語字幕の表示と非表示を切り替えながら楽しみます。字幕の勉強にも、外国語の勉強にもなります。


――先生の仕事環境を教えてください。

大塚先生:
普段の作業にはDellのデスクトップパソコンを使用しています。本体は特別なモデルではありませんが、モニターは大きなものを用意しました。同じくDellのノートパソコンも使っています。これは気分を変えて外で仕事をしたり、旅先で作業をする必要が生じたりする場合などに重宝します。外国語の辞書は、特別なものを揃えているわけではありません。英日はネット辞書を活用します。辞典類で欠かせないのは、『朝日新聞の用語の手引』(朝日新聞出版)と『NHK漢字表記辞典』(NHK出版)、『アルファベットから引く外国人名よみ方字典』(日外アソシエーツ)です。字幕ツールとしてはカンバスのSSTG1を使っています。これがないと仕事になりません。


――字幕制作ツールを購入するタイミングは難しいところですよね。

大塚先生:
私は大学院在学中に、翻訳会社の通信講座で字幕翻訳を勉強しました。講座修了後、トライアルを受けて合格し、登録翻訳者になった時点で、字幕ツールの購入に踏み切りました。


――1つの仕事を受注した際、納品までの流れを教えていただけますでしょうか?

大塚先生:
納品までに時間がある場合、ない場合で多少変わってきますが、基本的な流れは同じです。
まず受領した素材を確認します。ほとんどの場合、映像と併せてスクリプトが支給されます。時間がある場合は映像全体を見て、スクリプトを読みます。
それからスポッティング作業(※)に入ります。時間がない場合は、いきなりスポッティングから始めます。別にハコ台本の提出を求められない場合は、ここで原文入れの作業も行います。
スポッティングが終わり、全体の流れが把握できたら、翻訳の下準備です。時間がある場合は、紙焼きしたスクリプトに赤ペンやマーカーを入れながら、分からない単語を調べ、意味を理解していきます。わざわざ書きだすことはしませんが、頭の中でベタ訳を作るイメージです。それと同時、あるいは後にリサーチを行います。インターネットを活用すれば、かなりのことは調べられますが、より専門的なリサーチが必要とされる場合は図書館や書店に足を運びます。
調べることを調べたら、いよいよ字幕の作成です。時間がない場合は、スポッティングが終わったら、すぐに字幕の作成に移り、下準備、リサーチ、翻訳を同時に行います。字幕は一枚を完璧に仕上げてから次に進むというのではなく、流れに乗ってどんどん書いていきます。どうしてもいい訳を思いつかないところ、字数調整ができないところは、空欄のまま残したり、ベタ訳を入れたりしておき、あとから追加・修正します。
何度か行ったり、来たりしてすべての字幕が書けたら、頭から映像を流して確認していきます。誤訳はないか、映像との矛盾はないか、前後の流れはスムーズかなどを確認し、必要な修正や調整を加えます。一応、納得できる字幕ができたら、時間がある場合は、一晩寝かせます。客観的に見られるようにするためです。
翌朝、一晩寝かせた字幕を確認し、再び修正や調整を加えて仕上げます。それをSSTのエクスポート機能でテキストにします。時間があればこれをプリントアウトし、誤字脱字や表記の統一などの最終確認を行います。必要な場合はハコ台本を作成し、申し送りをまとめます。完成した字幕データ、ハコ台本、申し送り等を納品して、作業は終了です。

(※)スポッティング・・・映像に表示させる一つひとつの字幕のタイミングを決めること


――先生は大阪在住とのことですが、クライアント(制作会社)の所在地が東京にある場合、何か影響などありますでしょうか?

大塚先生:
字幕翻訳の場合、仕事の受注、素材の受け渡し、納品はすべて電話とネット経由で行われることがほとんどですので、地方に住んでいようが、実務上の不便はありません。何か影響があるとすれば、実務以外のことではないでしょうか。私は仕事を始めてから、ずっと大阪に住んでいますので、良くも悪くも、東京に住んでいる場合との違いを感じたことがありません。ですので、これは一般論ですが、制作会社や翻訳会社がある東京から離れて暮らしていると、業界の動向に疎くなるかなとは思います。その点はデメリットかもしれませんね。


――最近は特典映像や企業PVのように映画やドラマ以外で、字幕を必要とする仕事が増えていると聞きます。

大塚先生:
最近は下手なドラマより面白いショートムービー風の企業PVもありますよね。思わず見入ってしまいます。企業PVにしろ、特典映像にしろ、翻訳者がやることは同じです。ただし、特典映像の翻訳には、多少、違ったコツが要るかもしれませんね。これは特典映像のみならず、ドキュメンタリー要素を持つものすべてについて言えることだと思いますが、メイキングやコメンタリーでしゃべっている人は、映画やドラマのように練られた台本に基づいてセリフを話しているわけではないので、発言に矛盾があったり、話が脱線したり、何が言いたいのかよく分からないこともあります。文法のきっちりした教科書的英語を話してくれるわけでもありません。これを日本語としてスムーズな字幕にするのは、結構大変です。とにかく慣れが必要な仕事かもしれません。


――オールラウンダーな映像翻訳者としてさまざまな映像案件を受けられているそうですが、デビュー当時はどんな仕事が多かったのか、今はどうなのかなど、お聞かせいただけますでしょうか。

大塚先生:
デビュー当時は尺の短い特典映像を依頼されることが多かったですね。その尺が徐々に伸び、ドラマ本編の翻訳などもさせていただけるようになりました。今はシリーズ物の本編を任せていただける機会も増えましたが、相変わらず特典映像の翻訳をさせていただくことも多いですし、基本は変わりませんね。
できることは何でもやっているおかげか、最近は仕事が途切れることは、ほとんどありません。どんな案件であっても継続して仕事をいただけると、勘が鈍らないので、ありがたいです。次の仕事にもつながりやすいと思います。


――大塚先生は映画や美術を専門的に学ばれ、ベルギーにも留学されたそうですね?

大塚先生:
日本の大学で美学・芸術学を専攻していたので、映画理論や美学を学びました。元々、映画の研究をしていたこともあり、映像を分析的に見ることに慣れています。それは映像翻訳の仕事に活かされているかなと思います。映画一般に関する知識も、DVDの特典映像などを翻訳する時に大いに役立ちますね。
海外経験ということで言えば、すべてがこの仕事に役立っていると思います。いろんなテーマの作品を扱う映像翻訳者にとっては、留学に限らず、あらゆる経験が糧になるのではないでしょうか。


――先生はフランス語も堪能で、フランス語講師もしてらっしゃるそうですね。フランス語ができるということで、映像翻訳者としてメリットを感じたことはございますか?

大塚先生:
英語に比べればフランス語の案件は少ないですが、その分、翻訳者の数も限られているので、案件が発生した時に声をかけていただける確率は高くなるかなと思います。それだけでやっていくのは難しいと思いますが、英語プラスαで別の言語ができると強みにはなりますね。
フランス映画一般で言えば、日本で公開されていないものでも、面白い作品はたくさんあります。特にコメディー作品は、日本人のセンスになじまないのか、本国でヒットしても日本で公開されないことが多いので、残念です。


――先生が好きな映画を教えてください。

大塚先生:
好きな映画はいろいろありますが、今、ふと心に浮かんだのは「ベスト・フレンズ・ウェディング」(1997)です。結婚式のリハーサルで、ルパート・エヴェレットが「小さな願い」を歌い出すシーンが好きです。何度、見ても飽きません。ジュリア・ロバーツもキャメロン・ディアスも、どちらかと言えば苦手なタイプの女優さんだったのですが、この映画を見て、なんだか好きになった記憶があります。


――最後に字幕翻訳者を目指して学習中のみなさんに、メッセージをお願いします。

大塚先生:
プロになるまでの道のりは、短く平坦な場合もあれば、長く険しい場合もあるでしょうが、前を向いて進みましょう。途中で転んだり、立ち止まったり、ムーンウォークをしてみることもあるかもしれません。でもすべての経験が翻訳者の血肉になるはずです。プロになってからも精進の道は続きます。自信を持って謙虚な気持ちでスタートラインに立てるよう、きばっていきましょう。


◆大塚先生のプロフィール◆
映像翻訳家。映画本編からTVのドラマシリーズ、ドキュメンタリー、バラエティー番組、DVD特典や企業PVまで、複数メディアにわたり多ジャンルの字幕翻訳をこなすオールラウンダー。


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