翻訳こぼれ話

小説、ノンフィクション、児童書……フェローの講師や受講生が手がけた翻訳書にまつわる貴重なエピソードをご紹介。これを読めば本が2倍楽しめること間違いなし!

今回の作品
『音楽史を変えた五つの発明』

今回は、松村哲哉先生の訳書『音楽史を変えた五つの発明』をご紹介します。
かねてより"音楽関連の書籍翻訳を手がけたい"とおっしゃっていた松村先生。『音楽史を変えた五つの発明』は、なんと原書の持ち込み企画により出版に至ったそうです。見事に目標を実現された書籍の翻訳には、どんなこぼれ話があるのでしょうか?
  • ハワード・グッドール【著】松村哲哉【訳】
    白水社

    <梗概>

    聖歌隊員として幼少期を過ごし、ミサ曲やミュージカル、テレビ番組のBGM等さまざまなジャンルで作曲に携わってきた著者が、クラシック音楽界の未来への手がかりを得るため、過去千年に起こった5つのビッグバン(突然の変化、急激な転換点)を紹介する。

翻訳を始めて間もない頃から、会う人ごとに
「音楽書を訳したい」と言い続けてきた

  • まずは、『音楽史を変えた五つの発明』の内容紹介をお願いします。

    松村先生

     西洋音楽千年の歴史において重要なターニングポイントとなった5つの「発明」を取り上げ、それが一般社会にもたらした影響を含めて、その内容を深く掘り下げたユニークな音楽史です。5つの「発明」とは、記譜法(楽譜)、オペラ、平均律、ピアノ、録音技術です。著者のグッドールは、日本でもおなじみの「ミスター・ビーン」シリーズの音楽を担当した作曲家で、本書は彼がホスト役を務めた英国のテレビ番組が元になっています。グッドールの説明は非常にわかりやすく、知っていると音楽が一層楽しくなるような知識が自然と身に付きます。

  • この書籍は出版社に企画を持ち込まれたことがきっかけで翻訳出版されたそうですが、原書を見つけられた経緯を教えてください。

    松村先生

     訳者紹介に「クラシック音楽は仕事以上に詳しい」と書かせていただいたことがありますが、とにかく中学生の頃からクラシック音楽が大好きで、中でもオペラにはまっていました(現在は弦楽四重奏ですが)。それだけに49歳でフェローの「カレッジコース」に通いはじめ、本格的に翻訳を目指すようになって、最初に考えたのは「クラシックの音楽書を訳したい」ということでした。普段から日本に紹介されていない英語の音楽書をよく読んでいました。その中でもこれなら日本の読者にも受け入れられるに違いない、と思った本が何冊かあり、本書はその内の1冊です。こんな面白い本がなんで日本で訳されていないんだろうと考え、カレッジコースを修了したその年にシノプシスを書きました。

  • 出版を実現させるために何か工夫されたことなどはありますか?

    松村先生

     翻訳者が出版社にいきなりシノプシスを持ち込むというのは相当勇気の要ることだと思います。私の場合は、初めての上訳の仕事(ビジネス書の翻訳)を依頼してくれた翻訳エージェントの方が、私のシノプシスを複数の出版社に持ち込んでくださいました。それが編集者の目にとまり、出版につながったわけです。翻訳をはじめて間もない頃から、会う人ごとに「音楽書を訳したい」と言い続けてきたのがよかったのではないかと思います。数年前フェローやアメリアで取り上げていただいたインタビューでも、聞かれてもいないのに、「音楽書、音楽書」と言っていたような気がします。
     私が書いたシノプシスはほとんどが音楽書で、ジャンルが相当偏っていますが、まとめる際に心がけているのは類書にどのようなものがあるか、提案した本は類書と比較してどのような違い、または魅力があるか、という点です。類書は可能であれば図書館や古本で取り寄せて、片っ端から目を通すことにしています。

  • 翻訳にあたって苦労した点や気をつけた点はありますか?

    松村先生

     翻訳に取りかかったときは、初めての音楽書ですし、「こりゃ楽しいぞ」とはしゃいでいたのですが、なかなか現実は厳しかったですね。5つの発明の内、普通なら一番厄介な平均律の問題は、元々音律に興味があって関連する本を読みあさっていましたからまだよかったのですが、中世の楽譜やピアノの構造、そして音楽と深く結びついているキリスト教に関する事柄などは、調べ物に随分時間がかかりました。楽譜については出版社の紹介で大学の先生に一部お尋ねし、またキリスト教については担当された編集者さんが詳しかったので、非常に助かりました。
     それでも全体を訳してみると、曖昧な箇所や疑問の残る箇所が十数カ所残りました。結局出版社を介して著者にコンタクトを取り、慣れない英作文をして、2度にわたり直接メールで問い合わせたのですが、著者がいずれの場合も数日の内にかなり詳しい返答をくれたのには感激しました。そのことで、ある程度自分の音楽知識に間違いのないことがわかり、ほっとしました。著者は作曲家で、音楽の専門家ですから、質問状を作るにあたっては、かなり緊張しましたので。

  • 今後はどんな作品を訳したいですか?

    松村先生

     音楽書です! あっ! 仕事を下さるんでしたら他のジャンルの本ももちろん訳しますが、音楽関係には未訳のいい本がいっぱいあるんですよ。特にイギリス人の書いた本に面白いものが多いように思います。もっとも、シノプシスを見せても「ちょっとマニアックすぎる」として却下されることがほとんどですが、とにかく1冊出版にこぎ着けましたから、これを励みに今後も続けていきたいと思います。

松村哲哉先生のプロフィール

百貨店勤務を経て、2010年度「カレッジコース」を修了。その後は単科で夏目大先生に師事し、現在はビジネス書を中心に翻訳を手がける。主な訳書に『音楽史を変えた五つの発明』(白水社)、『コア利益調整で隠れた"お宝株"を見つけ出す!!』(ローカス)、『プロジェクトは、なぜ円滑に進まないのか』(ファーストプレス)など。また専門学校でTOEICの講師をつとめる。

<編集後記>

松村先生、ありがとうございました。先生と同じように、自分の趣味や好きなことを翻訳に活かしたい! という目標を持つ方はたくさんいらっしゃると思いますが、とても勇気づけられますね。カレッジコース受講中の松村先生(本当に夏休みも毎日パソコンルームで自習していらっしゃいました!)を知るスタッフにとっても、非常に感慨深い1冊です。
(written by Hirano)

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